クラウドストレージの新しい潮流へ Filecoinによるデータ保管の仕組みを解説

はじめに


 非中央集権型のストレージサービスに経済的インセンティブを組み込んだネットワークとして、Filecoinには経済的な意義があるといえる。本稿では、経済モデルの基盤として、Filecoinネットワークの使命と提供価値、およびストレージサービスの基本的な流れについて述べる。


 本稿の主な情報源は2020年8月発行の公式解説文書であり、また以降のFilecoinのアップデートも必要に応じて内容に反映されている。



1. Filecoinネットワークの使命と提供価値


 FileCoinネットワークの使命は、人類の情報のために非中央集権的・効率的・強固な基盤を創ることである。そのため、Filecoinの経済モデルにおいては、最小限のルールでインセンティブが適切に機能し、使いやすく信頼性の高いストレージに実利的な報酬を与えることが目的とされている。


 データストレージとデータ流通産業の規模に着目すると、クラウドストレージ産業は460億米ドル(2019年)、CDNは190億米ドルの規模であり、世界全体での使用データ量は増加の一途を辿っている。クラウドストレージ業界の世界上位5手がIaaS市場の77%を支配下に置いており、新規参入が困難な現状がある。


 Filecoinはこうした現状を鑑み、任意の規模のストレージ提供者が当産業へ参画することを可能にしつつ、同時に周辺ツールや文書の整備の他、ネットワークのブランド確立も引き受ける役割を果たす。Filecoinネットワークは、その初期においては読み取り頻度の少ないファイルに最適なネットワークとなり、またストレージのクライアントからのデータ取得要求に高速で応えることも見据えられている。初期段階においても、Filecoinは以下の価値を提供する。

  • 検証可能なストレージ

  • オープン型の参加形態

  • ストレージ分散化による局在的な最適化

  • 柔軟なストレージの選択肢

  • コミュニティによるFilecoinネットワークの形成と改善



2. Filecoinにおけるデータ保存と取得の要点


 Filecoinにおいて、ストレージサービスの大まかな流れは下図のようになっている。 まずクライアントがストレージの提供者(マイナー)に取引を提案し、取引が成立すると、マイナーはクライアントからデータを受け取る。マイナーはそのデータをセクターと呼ばれるストレージの基本単位に収納・封印(Sealing)する。そして、ブロックチェーン上に2種類の証明を記録する。一つはマイナーが確かにデータを記録したことの証明であり、もう一つは定められた期間に亘ってマイナーがデータを保存していることの証明である。マイナーへの報酬は、ブロックチェーンの成長にしたがって一定の条件下で発生する。クライアントがデータを取得する際には、マイナーに手数料を支払い、マイナーがセクターから求められたデータを取得し、クライアントに送信する。




(画像出典:https://filecoin.io/2020-engineering-filecoins-economy-en.pdf


 以下では、このプロセスの要点を概説する。



3. データの受け渡し


 クライアントはマイナーに保管を依頼するデータを用意し、マイナーを選択する。データの内容や種類に制限は無いが、Filecoin自体にアクセス制限は実装されていないので、機密情報については、少なくとも信頼できる暗号化を施す必要がある。マイナーについては、地理的な所在や手数料、計算資源、過去の実績などを判断材料として選択するとよい。クライアントとマイナーの取引が成立すると、手数料がネイティブトークン(FIL)で支払われ、データの受け渡しが行われる。マイナーは受け取ったデータをセクターに保存する。



4. セクターとその質


 セクターとは、Filecoinにおけるストレージの基本単位である。市場で成立したストレージ取引が、マイナーに用意されたセクター(箱)に詰め込まれるようなイメージである。セクターの容量は諸条件によるが、32GiBが代表的な値の一つであり、セキュリティ上の懸念と利便性のバランスを考慮して決定される。また、クライアントのデータが詰め込まれたセクターは、データが必要な期間に亘って存在し続けることが求められ、これはセクターの寿命として、市場取引によって決まる。寿命の上限は18か月である。なお、FIlecoinではエポック(Epoch)とよばれる時間単位もあり、エポック内にブロックチェーンへ新規ブロックが追加される。現行では1エポックは30秒に相当する。


 Filecoinでは、セクターに関するいくつかの指標を元に、セクターの質やマイナーのコンセンサス能力が評価される。セクターの質とは、一つのセクター全体の容量と寿命の積(バイトxエポック;容量時間;Spacetime)において、未使用だが使用可能な(預託された;Committed)部分と、実際の取引に割り当てられている部分をそれぞれ重み付けした量の総和に相当する。


 セクター内の各部分の重みは質係数(Quality multiplier)と呼ばれ、その実際的な価値とでもいうべき基準によって決まる。具体的には、事前にある種の検証(Verification)プロセスを受けているクライアントによる取引については、未使用部分やその他の取引による部分の10倍の質があるとみなされる(単位容量時間あたり)。検証済みクライアントによる取引のデータ使用については、Filecoinにおいて容量時間の占有に圧倒的な意義がある、というモデリングであると解釈できる。下図はセクターの質の計算例である。




(画像出典:https://filecoin.io/2020-engineering-filecoins-economy-en.pdf


 以上に述べたセクターの質は、マイナーのコンセンサスパワーに影響する。すなわち、マイナーのコンセンサスパワーは、セクターの容量(バイト)とセクターの質の積に等しい。ブロックチェーンのマイニングを行う権利を得る確率はコンセンサスパワーに比例するため、Filecoinをコンセンサスパワーで支配しようとするマイナーは、莫大なストレージを用意するだけでなく、多くの検証済みクライアントと取引する必要がある。


 なお、マイナーが自身の管理下にあるクライアントと取引することも可能ではあるが、未検証クライアントによる取引と未使用部分の容量時間は、質係数がともに1であり、そこにインセンティブが生じないような設計となっている。また、未使用部分でも質係数が1であるのは、使用可能な容量時間をFilecoinネットワークに割いていることへの評価を表している。



5. セクターの封印(Sealing)、保管と終了


 セクターに取引が収納されると、封印(Sealing)が行われる。これにはProof-of-Replication(PoRep)と呼ばれる計算が含まれ、大きな計算資源を要する。封印により、ファイルを保存したことの証明が生成されると、マイナーはこれを圧縮してブロックチェーンに提出する。その後、定められた期間の間、ファイルが保管されていることを示すのがProof-of-Spacetime(PoSt)である。この間、マイナーは一定の期待値に沿ったブロック報酬を受け取る。


 セクターは寿命を全うするか、マイナーが寿命を延長するか、あるいはマイナーが何らかの理由で保管を放棄するまで存在する。一時的あるいは恒久的にセクターの可用性が損なわれてしまった場合、その期間や故障について、Filecoinに検出されるより先にマイナーからの報告があったか、恒久的な停止であるかといった観点で、マイナーに対し過料が発生する。



6. コンテンツ配信とデータ取得市場


 Filecoinが人類の情報の基盤となる非中央集権型のストレージネットワークとして機能するにあたり、データを保存するだけでは不十分であり、コンテンツを要求された場所に届けることも当然必要となる。そこで、Filecoinは無許可型のデータ取得市場のためのインフラを提供することを目指している。


 データ取得の大まかな流れとしては、次のとおりである(下図参照)。まずクライアントが求めるコンテンツのクエリを取得マイナーに送ると、取得マイナー同士がゴシッププロトコルを通して連絡し、コンテンツの所在が明らかになる。目的のコンテンツを保管するマイナーは、当該クライアントに取得取引の提案をする。取引が成立すると、データのやり取りと料金の支払いが行われる。




(画像出典:https://filecoin.io/2020-engineering-filecoins-economy-en.pdf


 データの取得自体は独立した市場が無くとも可能である。しかしながら、データ取得用の二次市場があれば、ストレージマイナーへの依存を減らすことができ、またネットワークの速度や信頼性、スケーラビリティの向上にも繋がる。データ取得の二次市場については、ChainSafeConsensysMyelなどが実験を行っている形跡があるが、課題も多く、未だ実用には至っていないようである。


 なお、マイナーが広範囲にわたってコンテンツ配信サービスを提供することを狙って、将来的にFilecoinの準備金がそのインセンティブとして利用される予定である。



まとめ


 本稿では、Filecoinの経済モデルについて、前提となるFilecoinの使命や目指す提供価値、およびシステムの要点について概説し、Filecoin経済の下地を示した。Filecoinネットワークは人類の情報のために非中央集権的・効率的・強固な基盤を創ることを使命として、経済的インセンティブを組み込んだシステムを提供する。


 データ保管においては、クライアントとマイナーの間で取引が成立すると、そのデータはセクターに保管・封印され、定められた期間に亘って保管が証明される。検証済みクライアントによる取引は特に質的な重要性が高く設定されており、実用的なネットワークの発展に一役買っている。


 データ取得については、現状で可能であるが、より健全なネットワークに向け、データ取得市場の実現が待たれる。



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