カーボンニュートラル実現へ向けたブロックチェーン取り組みのまとめ ①

前書き


 2020年10月に内閣総理大臣は「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表した。それ以来、「カーボンニュートラル」という言葉を良く聞かれるだろう。実は日本以外に多くの国は「カーボンニュートラル」について目標を発表し、動き始めた。これから、産業の改革を進めながら、一般生活にも影響を与えるだろう。


 カーボンニュートラルを実現するため、ガバナンスや技術など様々な領域に創出を期待している。その中にブロックチェーンが何か活用できるかというのは興味深い課題と思われる。したがって、我々はカーボンニュートラルにおけるブロックチェーン応用に関する研究をした。



目次

  1. 脱炭素化の背景

  2. カーボンニュートラルとは

  3. カーボンニュートラルを実現するための取り組み

  4. カーボンニュートラルを実現するためのブロックチェーンの応用



1. 脱炭素化の背景


 産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度は上昇している。「気候変動に関する政府間パネル」のIPCC第5次評価報告書(2014)によると、世界の平均気温は1880年から2012年の間に0.85℃上昇した。過去50年間の気温上昇は人為的であると考えられており、2100年末までに1986年から2005年の平均気温に比べて4.8℃上昇すると予想されている。そして、IPCCの1.5℃特別報告書(2018年発表)によれば、すでに世界の平均気温は、産業革命前に比べて、人間活動によって約1度上昇しており、このままの経済活動が続けば、早ければ2030年には1.5度の上昇に達し、2050年には4度程度の気温上昇が見込まれている。


 したがって、「カーボンニュートラル」という用語が提案された。「カーボンニュートラル」の本質は、実際には「汚染した後で処理する」という処理段階である。今まで解決すべき課題が宇宙の環境汚染防止であり、将来解決すべき課題が時間と空間のスケールでの気候変動である。その中で、世界の二酸化炭素濃度を18世紀の産業革命前のレベルに戻すことは目標の一つである(下の図)。




出典:「私たちにとって、カーボンニュートラルとは何か」



2. カーボンニュートラルとは


 環境省ではカーボンニュートラルを以下のように定義している。


 「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。(カーボン・オフセットフォーラムより)」


 定義によると、カーボンニュートラルとは、企業や家庭が排出する温室効果ガスを省エネルギー化によって削減するとともに、削減しきれない分を、植林や森林保護といった「ほかの場所での吸収」によって正味でゼロにする取り組みのことを指す。



 この言葉は大きく分けて2つの文脈で使われる。


 定義①:エネルギー分野において、植物由来のバイオマス燃料などに関し、「燃焼するときにCO₂を排出するが、植物の成長過程で光合成によりCO₂を吸収しているので、実質的にはCO₂の排出量はプラスマイナスゼロになる状態」のことを意味する。


 定義②:社会や企業における生産活動において、「やむをえず出てしまうCO2排出分を排出権の購入や植樹などによって相殺し、実質的にゼロの状態にする」のことを意味する。

次には後者(定義②)に基づいてカーボンニュートラルを実現するための取り組みを説明する。



3. カーボンニュートラルを実現するための取り組み




出典:経済産業省より 2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(2021)


 カーボンニュートラルの目標を実現するために、非電力分野電力分野において、CO₂排出を削減、または排出されたCO₂を吸収するアプローチがある。



1. 非電力分野における事例


 非電力分野においても電力分野においても、多くの機関や企業が「再生エネルギーの利用拡大」と「CO₂排出を削減する取り組み」の2つのアプローチでカーボンニュートラルの目標達成に取り込んでいる。以下はいくつかの例である。


1) 再生エネルギーの利用拡大:


a) 藻類からの燃料油製造筑波大G(Botryococcus brauniiによる燃料油製造)・米国DOE(培養池大型化と燃料油製造工程組合せ)・ニュージーランドNIWA(下水道処理場排水が原料)は低CO₂負荷燃料としてのカーボンフリー液体燃料の使用を検討した。


2) CO₂排出を削減する取り組み:


a) マツダ株式会社「MAZDA MX-30 EV MODEL」マツダ株式会社は、「MAZDA MX-30 EV MODEL」を、全国のマツダの販売店を通じて、2021年1月から発売し始めた。「MX-30 EV MODEL」は、2050年時点のカーボンニュートラル実現へのチャレンジに向けて、マツダの「マルチソリューション戦略」にもとづき、LCA評価によるCO₂削減とお客様の使い方を両立するという新しい考え方から企画した、マツダ初の量産電気自動車である。


b) DMG MORIカーボンニュートラルへの取り組み 2001年度からISO14001に準拠した環境マネジメントシステムを取得し、工場内の環境保全に努め、太陽光発電設備の導入や照明の低消費電力・長寿命LEDへの取り換え、先進的な暖房・換気・冷房システムの採用など、あらゆる面でCO2排出量削減に取り組んでまいった。


c) Gucciの「ネイチャーポジティブ環境戦略」2019年、持続可能な製品の設計・製造方法を採用することで、温室効果ガス排出量をCO2換算26.6万トン削減(過去2年間でCO2換算約70.6万トン削減)する。


d) 気候変動に対するNETFLIXの取り組み2020年にNetflixが排出したCO2は110万トン(50%が物理的な制作過程で排出され、45%が企業活動や購入した商品で排出され、5%がAWSやOpen Connectなどのサービス利用で排出される)だった。



2. 電力分野における事例


1) 再生エネルギーの利用拡大:


a) 日立による自家消費型オフバランス太陽光発電設備の導入日立は、2030年までのカーボンニュートラル達成に向けて、省エネルギー、再生可能エネルギー設備の導入、再生可能エネルギーの導入を進めており、2020年には3事業所がカーボンニュートラルを達成した。

2) CO₂排出を削減する取り組み:


a) 大阪ガス(都市ガスの脱炭素化に貢献する取り組み): SOECメタネーションとケミカルルピーング燃焼技術メタネーションにより、既存の都市ガス供給網やガスを使用する機器・設備を引き続き使用しながら脱炭素化を実現できる(大阪ガスの2021年1月25日のリリースより)。ケミカルルピーング燃焼技術を活用することで、燃料に石炭を用いた場合には分離したCO2を貯留や利用することでクリーンな水素・電力の製造が可能となる。また、燃料にカーボンニュートラルなバイオマス燃料を用いた場合は、グリーンな水素と電力に加え、バイオマス由来のCO2を同時に製造することが可能となる。


b) e-Mobility Power(電気自動車の充電インフラを整備する):電気自動車(EV)など電動車向けの充電インフラを整備するe-Mobility Powerは東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資で設立された。


出典:e-Mobility Power



4. カーボンニュートラルを実現するためのブロックチェーンの応用


 ブロックチェーン技術は、エネルギー業界に変革をもたらす。例えば、屋上ソーラー、電気自動車、スマートメーターなどのイノベーションが注目を集めてきた。現在、イーサリアムブロックチェーンは新興技術として、スマートコントラクトとシステムの相互運用性を通じてエネルギー業界の成長を促進しているが、ブロックチェーンの応用場面で、エネルギーと持続可能性などの使用方面があまり認識されていないだろう。世界経済フォーラム・スタンフォードウッズ環境研究所、及びPwCは、65以上の環境分野に関する既存及び新規のブロックチェーン応用シーンを特定する共同レポートをリリースした。これらの応用シーンには、エネルギー市場の新しいビジネスモデル、リアルタイムのデータ管理、カーボンクレジットまた再生エネルギー証明書のブロックチェーンへの移行が含まれている。


 分散型元帳という技術は、グリッドの管理プロセスを追跡することにより、ユーティリティプロバイダーの効率を向上できる。追跡を加えて、ブロックチェーンは再生エネルギーを分配する為のユニークなソリューションを提供できる。


 石油やガスなどの従来のエネルギー業界も、イーサリアムソリューションから恩恵を受けるのと同時に、その中で、複数の参加者のある複雑なシステムには、ブロックチェーン技術のメリットをもらえる。例えば、①石油は最も頻繁に取引されている商品の1つであり、精製業者、タンカー、雇用者、政府、規制機関などから構成されたネットワークが必要である。②複数の参加者のある複雑なネットワークは、不完備なインフラとプロセスの非効率性に悩まされている。③大規模な石油及びガスの企業グループは、コストを削減し、環境への悪影響を低減する為、ブロックチェーン技術への投資と実装を模索している。また石油及びガス企業が企業内部の情報セキュリティに懸念していることに対して、パブリックチェーンで企業にとって必要な情報セキュリティを実現できるようになるまで、プライベートチェーン及びコンソーシアムチェーンはソリューションを提供できる。


 総じて言うと、エネルギー分野におけるブロックチェーンを使用する利点は次のとおりである:① コストの削減、② 持続可能性、③ 情報セキュリティを確保するのと同時に、利害関係者の透明性を高める。次には「非電力分野」と「電力分野」



1)「非電力分野」


 石油及びガス取引におけるブロックチェーン技術の活用は、様々な取引システムの保守に関連するコストを削減できる。さらに、ブロックチェーンは、労力、データ管理、データ可視性、決済遅延、及びシステム間の通信に関連するコストも削減できる。ブロックチェーン企業であるBTL Groupは、ENIBP、及びWien Energieとのパイロットプロジェクトを完了した。このパイロットは、ガス取引を促進及び追跡する為のブロックチェーン技術の使用により、全体的なコストが30〜40%削減されることを実証した。


 石油及びガス業界の企業は大きく3つのカテゴリーに分けられる:上流、中流、下流である。


 上流とは、資源の探査と抽出に関係する部分を指す。上流の石油及びガスのセグメントは、メジャー、NOC(国営石油会社)、独立系、及び油田サービスの4つの主要な利害関係者によって支配されている。メジャーは、油田と坑井の活動を管理または所有する大規模な石油及びガス会社である。上流では、他の企業から提供されたデータに依存する数十の利害関係者の関与が必要である。ブロックチェーン技術は、大規模なマルチパーティからのデータ調整を最適化できる。

下流とは、リソースを複数の最終製品に絞り込んだり、エンドユーザー(ガソリンスタンドなど)に製品を販売したりする企業を指す。さらに、下流には、数十の異なる製品の管理が含まれる。ブロックチェーン技術を活用したサプライチェーンは、大規模で複数の製品の調整を最適化できる。サプライチェーンを記録及び追跡するブロックチェーンプラットフォームの機能は、無駄を防ぐことができる。


 さらに、スマートな法的契約を利用するプラットフォームは、関係するすべてのエネルギー企業が必要としている時間、エネルギー、及び資金を置き換えることができる。改ざんできない元帳は、石油とガスの生産のすべての段階に必要なデータの管理と追跡に役立てる。


2)「電力分野」


a) P2P取引:


 P2Pエネルギー市場は、他の参加者から余剰エネルギーを取引及び購入する共有ネットワークである。このようなエネルギー市場は、卸売業者などの中央当局からの管理を減らす為、大衆に利益をもたらせる。ほとんどの企業は、エンタープライズバージョンのイーサリアムを使用している。例えば、Energy Web Foundationは、Ethereum、Truffle開発者ツール、Gnosisマルチシグネチャウォレットを利用してプラットフォームを構築している。それで、自らのエネルギーを生成する個人は、それを隣人や仲間と交換することができる。


b) EV充電と管理:


 複数の企業が参加するパイロットデモンストレーションが実施されており、明確な価値提案があることを考えると、EV充電および管理の市場レベルは高いと見なされる。例えば、Share&Charge社が実施したOslo2グプロジェクトには、7つの異なるヨーロッパの公共事業会社が関与し、パイロットデモンストレーションとライブプロダクトのリリースの両方が行われた。ただし、この分野で汎用的なビジネスモデルはまだ確立されておらず、明確に定義されたサービスや製品はない。Share&Chargeアプリの最初のリリースには1000人を超える登録ユーザーがいたため、この分野の消費者意識が高いと評価されており、このようなソリューションに対する消費者の需要が高いことを示している。さらに、EVの売上高は、技術の改善と政府補助金の増加に続いて、過去数年間で急速に成長した。EVの継続使用が見込まれることから、充電スポットのネットワークを拡張し、世界範囲での投資が完了していることから見ると、充電インフラの市場も拡大すると予測される。


c) グリッド管理:


 ブロックチェーン技術を卸売配電に実装しようとしている企業は、エンドユーザーをグリッドに接続することに重点を置いている。ブロックチェーン技術とIoTデバイスを組み合わせることで、消費者は小売業者からではなく、グリッドから直接エネルギーを取引及び購入できる。オーストラリアを拠点とする企業であるPower Ledgerは、コミュニティを相互に接続して「マイクログリッド」を作った。そういった「マイクログリッド」は、相互接続された分散型エネルギーリソースのグループである。理論的には、マイクログリッドは独立して自立することができる。多くのブロックチェーンエネルギー企業は、より大きく完全に分散されたP2Pグリッドの未来を構築している。


d) エネルギー商品の管理と取引:


 この分野において、明確な価値提案があるため、エネルギー商品の管理と取引の市場レベルは、比較的高いと考えられている。さらに、RECと炭素資産の両方を発行および取引するためのシステムがすでに存在している為、市場ニーズが存在することを示している。ただし、このソリューションにブロックチェーンを使用するほとんどのプロジェクトはまだ未成熟であり、各エリア内でのパイロットデモンストレーションはわずかしかない。消費者が証明またはトークンによって電力を追跡できる為、再生エネルギーおよびソリューションに対する市場ニーズが高いことがわかりやすい。例えば、太陽光発電から電力を生成するためにSolarCoinsが使用されている。



終わり


 2020年12月の時点で、多くの国が正味ゼロ排出量と目標を発表した。 英国、フランス、デンマーク、スウェーデン(2045年)、ニュージーランド、ハンガリーを含む6か国が2050年までに正味ゼロ排出量を達成するための法律を設立させた。本稿は上編として、脱炭素化からカーボンニュートラルの定義を説明した上、非電力分野と電力分野においてカーボンニュートラル目標達成のための企業や機関の取り組み、ブロックチェーン活用シーンを紹介した。下編では、「エネルギー分野におけるブロックチェーンの活用」に関するカオスマップで具体例を詳しく紹介する。



【免責事項】

HashKey DX Researchサービス(以下、「当サービス」とします。)における免責事項は、下記の通りです。

  • 本サービスで提供される文章や画像などにつきましては、無断転載することを禁止します。転載する際には、お問い合わせよりご連絡いただけますよう宜しくお願い致します。

  • 当サービスは著作権や肖像権の侵害を目的としたものではありません。著作権や肖像権に関して問題がございましたら、お問い合わせよりご連絡いただけますよう宜しくお願い致します。

  • 本サービスで提供される情報の内容に関しては万全を期しますが、その内容の正確性および安全性を保証するものではありません。

  • 本サービスにて提供される内容によって行為から発生した損害について責任を負うものではありません。

  • 利用者が本サービスで提供される市場調査データを用いて行う判断の一切について責任を負うものではありません。



【お問い合わせ】

HashKey DX Research事務局

research@hashkey.jp