イーサリアム高騰の背景

はじめに


昨今のイーサリアム(ETH)が高騰を続けている。2020年のイーサリアム(ETH)対前年上昇率は472%と、ビットコイン(BTC)の上昇率の303%をはるかに凌ぐパフォーマンスを見せた。そして2021年も5月12日には47万円台の新高値を更新したところである。イーサ高騰の要因を、市場におけるテクニカル指標や、需給に影響を及ぼすエコ経済圏や機関投資家による大口需要、或いは派生商品の存在など、いくつかの考え得る理由からその背景を考えてみたいと思う。


最高値更新が続くイーサリアム


ビットコインが大幅下落に転じる中、直近のイーサリアム(ETH)価格は高騰を続けている。先月4月15日以降の仮想通貨暴落(全面安)時の値動きでは、明暗が分かれている。全体の強い下落局面においても、イーサリアム(ETH)は2,000ドルのラインをサポートに下げ止まるなど調整幅は限定的であり、その後一際強い反発で最高値を更新したことは、中・長期保有動機を強め、ポートフォリオの資金配分を見直すアセットアロケーションの重要性を再確認さ高値更新でテクニカル上の下値抵抗ラインが存在しないことも、堅調な相場流入が継続している。昨今では、米NASDAQ上場企業(※1)が暗号資産イーサリアム(ETH)を購入したことが判明した。これは米国上場企業では初の事例となった。イーサリアム(ETH)価格は5月3日に初めて3,000ドルに到達し過去最高値を更新。その後続伸し5月10日には一時4000ドル台を突破している。




(出典:Kucoin ETH/USDT週足)


(※1)米NASDAQとカナダのトロント証券取引所に上場するフィンテック企業のMogoで、アプリを通してデジタル金融サービスを提供している。2018年にはMogoCryptoというアプリをローンチ、アプリ上でビットコイン(BTC)の売買サービスを提供した経歴を有する。今回、企業投資として累計4,400万円に相当する146ETHを平均価格2,780ドルで取得した。


イーサリアムの高騰の理由


イーサリアムの高騰の背景としては、以下の理由が考えられる。

1. 機関投資家の実需増

2. 法規制上の正当性

3. DeFi市場の急拡大

4. UNISWAP(分散型取引所)V3の実装

5. ETH2.0の思惑と需給好転

1. 機関投資家の実需増


米最大手デリバティブのCME(米シカゴ・マーカンタイル取引所)にて、イーサリアム(ETH)先物取引が、2020年2月8日より開始となった。CMEでは17年12月よりビットコインの先物取引を開始しており仮想通貨先物の取引開始は、ビットコイン(BTC)に続く2銘柄目。ビットコイン(BTC)先物建玉が10億ドルを超えるほど市場規模を拡大するなど取引需要が高まっており、同様に機関投資家がイーサリアム(ETH)のエクスポージャーに対するヘッジ手段が追加されたことで、イーサリアム(ETH)の実需に厚みが増す点が注目されている。


規制当局の認可を受けたイーサリアム(ETH)先物上場は、金融商品としてイーサリアム(ETH)の信頼性を引き上げ、現物エクスポージャーをヘッジの需要が見込まれており、主に機関投資家からの高い需要を示唆する。昨年グレイスケールの投資信託イーサリアムトラスト(ETHE)が、SEC(米証券取引委員会)の報告会社「Reporting Company」に正式登録されたことも含め、潤沢な資金力を有する機関投資家のゲートウェイとなることが期待される。


2. 法規制上の正当性


イーサリアム(ETH)は、「分散型ネットワークを有する仮想通貨は、有価証券ではない」との判断を2018年に得ており、米商品先物取引委員会(CFTC)からは、2019年開催の国際会議7「イーサリアム(ETH)は、コモディティに該当する」との見解を得て、「有価証券ではない」との判断が下されている。リップル(XRP)のような米証券取引委員会(SEC)から有価証券に該当するではとの嫌疑(※2)から、「米国証券法違反」とされるような不安はないことから、投資家の安心感につながっている。

(※2)米証券取引委員会(SEC)が2020年12月22日、米リップルを提訴したことを受け、米リップルが開発する時価総額上位の暗号資産XRPが暴落した。SECは以前より、デジタル資産の性質(権利、提供・販売方法)によっては、米国連邦証券法に基づく証券の定義に該当する場合があるとの姿勢を貫いてきている。


3. DeFi市場の急拡大


分散型レンディングプラットフォームAaveの暗号資産(仮想通貨)AAVEが過去最高価格を更新中である。執筆時点では前日比+29%、1週間前時点の価格と比較すると+30%の上昇率を記録。5月10日からの週間出来高も過去最高の出来高を示して取引されている。


(出典:Kucoin AAVE/USDT 日足)


昨年6月以降、DeFi(分散型金融)市場が、そのプラットフォームとして使用されるイーサリアム高騰を牽引している。仮想通貨データサイト『Dune Analytics』によると、2021年1月のDEX(※3)取引量は420億ドル(約4.3兆円)を記録。出来高が続伸した。


(出典:Dune Analytics)


(※3)DEXとは「Decentralized Exchange」の略で、中央集権の管理者が存在しない分散型取引所である。従来の暗号資産取引所は、中央管理者となる取引所に自らの仮想通貨を預け、取引を行う取引所では、秘密鍵の管理を取引所に委任するため、取引所の内部者による不正引き出しや、取引所の秘密鍵がハッキングされ、資金が流出してしまうリスクがあるが、DEXでは、暗号資産を取引したい者同士がブロックチェーン上で自らの秘密鍵とアドレスを用いて直接取引する為、セキュリティに優れていると言われている。


DeFiプロトコルのデータを集計するDeFi Pulseによると、DeFi市場のTVL(預け入れ総額)は右肩上がりに成長し、21年1月25日時点で、260億ドル(2.6兆円)規模にまで膨らんでいる。


出典:(DeFi Pulse)


4.UNISWAP(分散型取引所)V3の実装


2021年5月6日、DEX(分散型取引所)Uniswapが新バージョンとなる『v3』を5月6日に正式に実装完了した。V3はガス代改善と流動性強化の新機能の実装を目的としていて、Optimism L2(セカンドレイヤーの導入)、Concentrated Liquidity positions(LP関連)フレキシブルな手数料の変更点が主な特徴だ。価格指定を行いながら流動性供給できる機能が追加されるほか、ガス代が低減されるOptimism L2に対応することで、DeFi市場への利便性が大幅に向上する期待感が高まっている。DeFi市場の過熱感から、イーサリアム上のDeFi取引における送金手数料などの大幅なコスト上昇により、資金効率が悪い個人投資家らを中心に他チェーンへ移行する動きも出てきたことから、今回のV3実装により、Uniswapのコスト面や資金効率が改善されれば、イーサリアム関連の市場に再び流動性が大幅に上昇するとの観測も広がっている。

5. ETH2.0の思惑と需給良化


イーサリアムは、合意形成アルゴリズムのPoWからPoSへの歴史的転換点を迎え、トランザクションの検証に関する暗号経済的インセンティブが大幅に変化する。ETH2.0のステーキング報酬を目的として、大量のイーサリアム(ETH)が預託されており、市場の需給も大幅に好転、改善していることも価格騰勢を後押ししている。ETH2.0の預託契約には、21年1月7日時点では約20億ドル(2000億円)相当の217万ETHの預託量(The Block調べ)だったが、21年5月10日時点では約175億ドル(1兆9000億円)相当の442万ETHの預託量へと4カ月間で預託量(Kucoin調べ)は倍増、時価総額では約10倍と大幅増となっている。


(出典:glassnode alerts twitter)


デポジットコントラクトとは、イーサリアムの次世代チェーン「ETH2.0」の最初期フェーズで稼働したビーコンチェーン上で、ステーキングを行うための契約機能。コンセンサスアルゴリズムPoSにおけるステーキングとは、PoWにおけるビットコインのマイニングの代替手段に該当する存在で、「32ETH」を預け入れ、バリデータノードを運用することで報酬を得られる仕組み。株式配当金や不動産所得のように、暗号資産を保有することで安定的・継続的にインカムゲインを受け取ることができるため、イーサリアムの長期保有インセンティブにもつながる。


次世代イーサリアム2.0のメインネット、『ビーコンチェーン』は、2020年11月に稼働。ネットワークの安全性を確保するため、起動条件には、バリデーターの条件である「32ETHのデポジット参加者」が16,384(52万4288ETH相当)に達することが定められていた。

こうして、市場の循環サイクルに出回るイーサリアム(ETH)供給量(浮動数)が絞られやすい市場構造も需給面を良化させており、供給を大きく上回る実需が続けば、機関投資家や上場企業などのマーケットへの参入を経て、必然的に価格を押し上げることになる。イーサリアムのステーキング報酬は、バリデーター間で均等に配分され、バリデーターのネットワークのサイズが大きくなるにつれ、シェアされる報酬は低下する。


(出典:Ethereum Launchpad)


稼働当初の最高年率21.6%から、1月20日現在は9.5%まで下落したものの、高い利回りが得られる計算となる。デポジットコントラクトに預託したイーサリアム(ETH)による「ステーキング報酬」は、ネットワークの拡張にあたるフェーズ1.5の「シャードチェーン」実装までシステム上ロックされており、引き出すことができない点は注意が必要である。


次世代イーサリアムの開発と課題


イーサリアムの開発ロードマップ


次世代イーサリアムにあたるETH2.0は、4つのフェーズに分けられて開発されている。


(出典:Ethereum Launchpad)


  • フェーズ0:2020年(バリデータ管理の「ビーコンチェーン/Beacon Chain」実装)

  • フェーズ1:2021年(ユーザーが利用する「シャードチェーン」実装)

  • フェーズ1.5:2021年(シャードチェーン・メインネット稼働、PoS移行)

  • フェーズ2:2021年〜(シャードチェーン全稼働)


イーサリアムの課題点と今後の展望


一方、現時点ではさまざまな課題も残る。DeFi分野の急成長に伴い、デジタルアセット送信時のネットワーク手数料(取引コスト)である「ガス代」が歴史的な水準まで高騰しており、dApps(分散型アプリ)市場にも多大な影響を及ぼしている現状がある。


(出典:glassnode)


現在、イーサリアムにおける全トランザクションの99%がDeFiアクティビティに関連しているとさえ言われ、異なるスマートコントラクト間でイーサリアム(ETH)を移動する単純トランザクションは、ウォレット間のイーサリアム(ETH)転送よりも約10倍コスト高との試算もある。


このような問題を解決するため、2021年7月には大型アップデート「ロンドン」にて、ベースフィーのバーン(焼却)を伴う「EIP-1559」が実装予定であり、この計画も今後の需給及び価格動向に影響を及ぼすとされている。


まとめ


2020年もビットコイン(BTC)を抜き主要コインでは驚異的なパフォーマンスを示したイーサリアムは、本年も堅調な伸びを見せており、その活況要因としては、機関投資家の実需増、法規制上の正当性、DeFi市場の急拡大、UNISWAP(分散型取引所)V3の実装、ETH2.0の思惑と需給好転といった様々なトピックが人気のパラメータとなっており、今後もこのトレンドは暫く継続するのではないかと思われる。



2021/5/12




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